何気ない会話が成立していることに感動を覚える。
しかも、栗原さんがものすごくいい人。イケメンに加えて性格もいいとか、欠点が見当たらない。

一向に会話に参加しない藤澤さんをチラ見した沙夜さんが、「そちらのお兄さんは辛いのはどうです?」と無理やり引き込む。
そこでようやく、彼が顔を半分だけこちらへ向けた。

「……わりと好きです」

すごい小さい声で、表情の変化もなし。
もしかしたら、二人で飲んでいたのに邪魔されて迷惑がっている?

だとしたら、今すぐ身を引いた方が……と思った矢先。
栗原さんが沙夜さんにすみません、と謝っていた。

「ちょっと彼は人見知りなんです、打ち解ければ人格変わりますから」

「え!?人見知り!?」

反応してしまったのは、沙夜さんではなく私だった。


この反応を後悔しても、どうにもならない。
変なところに食いついた私を、藤澤さんの目がはっきりととらえたのだけは分かった。

初対面の体で話しかけてもらったのに、全部水の泡である。


「す、すみません……。じつは私、何度かやまぎんの試合を見に行ったことがあって。お二人のことを知っていて……」

早々にカミングアウトすることになってしまって、沙夜さんにも申し訳ない。
ところが、迷惑がられるどころか栗原さんは深々と私に向かって頭を下げた。これには本当に驚いた。

「本当ですか、ありがたいです!嬉しいです」

「……ありがとうございます」

藤澤さんも、同様。
こんなに感謝されるなんて、正直かなり驚いた。


話すきっかけを作ってくれた沙夜さんは、この状況を楽しげに眺めている。

「私は全然分かんないので、柑奈ちゃんが社会人野球にハマってることしか知りませーん」

「ハマってるというかなんというか、友達に薦められて」

凛子のことを言うか迷ったが、ここにいない彼女のことを持ち出すのは違うような気がして伏せる。

それでも栗原さんは、これが凛子なら撃たれているかもしれないと思うような優しい笑顔を浮かべた。

「俺たち社会人野球をしている身としては、試合に足を運んでくださってるってだけで本当に嬉しいもんなんですよ。かなり地味な世界でやってますから」