「来週からは東京かぁー。なんだか信じられないよ、柑奈がいなくなっちゃうってことが」

私の部屋は荷物がほとんどないからもてなすことができないので、凛子の部屋に泊まりに来ていた。
ちょっと寂しそうに凛子が私のグラスにビールを注いでくれる。
彼女と寝巻き姿でお酒を飲みながら、のんびりおしゃべりしていた。

「いつでも連絡とれるし、時々帰ってくるよ」

「あっちでは専業主婦なの?」

「うーん、生活に慣れるまではね。でも知り合いもいないし暇だろうから、日中はできたら働きたいかな」

「…………藤澤の年俸、いくらだっけ?」

「検索しないで!」

おもむろに携帯を取り出した凛子の手からそれを奪い取る。
年俸うんぬんというよりも、もっと大事なことがある。

彼も言っていたけれど、プロ野球選手の生命というのはそんなに長くない。ほんのひと握りの人だけが長く続けられる世界だ。
いつ引退に追い込まれるほどの成績不振に陥るか分からないし、万が一とんでもない怪我を負うことだってあるだろう。

堅実な旭くんは将来設計も堅実で、贅沢な暮らしはあまりしないようにして、なるべくこれまで通りの普通の生活を送ってお金を貯めたいと話していた。
それには私も大賛成だった。