時はさかのぼり、ことの始まりは約二週間ほど前のこと。

仕事終わりに友達とご飯を食べる約束をしていたため、いくらかお金を下ろそうと歩いて五分の銀行に足を運んでいた。
しかし、キャッシュカードの磁気不良によりATMでお金が下ろせず、仕方なしに少し混み合っている窓口で対応してもらうことにしたのだ。


番号札を受け取り、空いているイスに腰かけて携帯でキャッシュカードについて検索する。
……あぁ、再発行となるとだいたいどの銀行も一週間から十日ほどかかって自宅に郵送されてくるのか。

カードがないとなると、通帳を持ち歩かなければならないわけで。なんだかそれも少しばかり不安が募る。


チラチラと時計を気にしながら、自分の番号が呼ばれるのを待ち続けた。なにしろお昼休みに抜けてきているので、時間通りに会社に戻らなければならない。


ピンポン、という軽快な音がして窓口にいる一人の男性行員が立ち上がるのが見えた。

「145番でお待ちのお客様。お待たせ致しました」

まさに私の番号を読み上げたので、勢いよく立ち上がって彼の窓口へと急ぐ。
「いらっしゃいませ」と笑顔を浮かべたその人は、同じくらいの年頃の愛想のいい行員だった。
ちらりとカウンターに置いてある名前を見ると、「藤澤 旭」と書かれている。


私は手に持っていたキャッシュカードを彼に見せながら、早口でATMで使えなかった事情を説明する。

「磁気不良だと思うんですけど、ATMで使えなくなっていました。何度入れても返されてしまって。今夜、ちょっと予定があるのでお金を下ろしたかったんですけど…」

「そうでしたか、拝見します」

彼が差し出した手のひらにカードを乗せようとして手を止める。

なんとなく目を引いたのだ。
右の手のひらの下部に、かなり目立つマメがあったからだ。

……なにこれ、なんでこんなマメ?痛くないのかな?

まじまじと手のひらを見ていたら、「あの」と声をかけられた。

「……カード、拝見してもよろしいですか?」

「あっ、はい!」

すみません、と謝りながらカードを渡す。