こればっかりは、事情を聞いてしまうと私にはどうしようもないことに気づかされる。説得もなにも、沙夜さんの選択はとてもあたたかくて優しいもので、同時に切ない気持ちになった。
野球に関しては、数ヶ月前の私と同じくらい興味がない沙夜さん。
それでも、プロに行くということがどれだけ大変で素晴らしいことなのか、そして彼を支えることがどれほど大切なことなのか、冷静に今の自分の状況と見比べて出した結論なのだ。
タイミング的には、栗原さんも出場した日本代表で参加していたアジア競技大会だろう。
決勝の次の日、悟ったような顔をしていたのはこれだったのだ。
「結局、未来を想像して一緒にいられないなら、やめた方がいいのよ。だから柑奈ちゃんは、私の分まで…なんて言うと重いけど、幸せになって」
いつものあっけらかんとした笑顔ではなく、でもちゃんと吹っ切ったような表情で力強く笑いかけてくれた沙夜さんに、私は「はい」とも「私だけなんて無理です」とも言えなくて。
ただ無言で、彼女の目をまっすぐに見つめ返すことしかできなかった。
出会いは、時に運命的で、時に残酷だ。
この人だと思って恋に落ちても、相手も同じ気持ちだと分かっていても、代わりにはならない大切なひとは他にもいて、秤にかけることなんてできない。
私が沙夜さんの立場だったら、どうしていただろう?
自分の恵まれた環境に感謝することしか、今の私には思いつけなかった。



