翌朝、目が覚めて、さすがに仕事に行くのにパーカーとデニムで出勤するにはちょっと無理があったので、いったん帰宅すると伝えたら、藤澤さんが送るよと言ってくれた。
自宅へ戻って、クローゼットから手早く無難なオフィスカジュアルに見合う服を取り出して着替え、飛ぶようにして彼の車へ舞い戻った。
「仕事って、ガス会社だよね?」
「うん、そう。細々とやってる小さな会社なんだけど、みんな仲良しなんだ。この間のアジア大会なんか営業さんたちも総出で応援してたんだよ」
「……ありがとう」
会社の話をすると登場人物はいつもの三人になってしまうから、彼にとっては変わりばえのないものに聞こえるかもしれないが。
「今日も藤澤さんは午前中だけ窓口業務?」
「十一月の大会まではそうなるけど。大会が終わったらオフシーズンに入るから、練習は週三に減って丸一日窓口につくことが増えるよ」
彼の話を聞いて、そうかと気がつく。
冬は野球をするには向いていないから、オフシーズンになるのか。
会社までの道を口頭でナビしながら、冬になったら彼の忙しさは落ち着くようになって、昨日みたいにゆっくり遠出もできるのかなと胸が踊った。
もうすぐ会社に着くというあたりで、ふいに彼が
「名前、違う呼び方がいい」
と言い出した。
「名前?」
「そう」
「藤澤旭。いい名前。誰がつけたの?」
「ばあちゃん。小林旭のファンだったらしくて」
「…え。それでなんで“あさひ”?」
「役所に届ける時に父さんが間違えたみたい」



