ご飯を食べ終えたあと食器をしまいながら、さりげなく聞いてみる。

「この間の大会の金メダルとか、そいうのはないんですか?」

「ないです。すみません、全部実家に置いてて…」

「市内なんですか?ご実家」

「わりと近いです、車で二十分くらい」

うちと似たくらいだな、と思う。
自立したくてとりあえず始めた一人暮らし。実家を出て二年経つが、いまだに心配のようで頻繁に連絡が来たりする。

「メダルとかトロフィーとか、飾らないんですね」

「あまり好きじゃないです、飾るのは。なんか、ひけらかしてるみたいで」

「ひけらかしていいんですよ!輝かしい経歴ですから」

本気で思ったからそう言ったけれど、思い返せば彼は現状に満足していないんだった。大事なことを忘れていた。

ハッと我に返ったときにはすでに藤澤さんは困ったように眉を寄せて、私を見ていた。

「石森さんは手放しでそうやって褒めてくれますけど、まだやれることはあるので。甘やかさないでください」

「甘やかしてませんよ!分かりませんか?ファン心理です」

ふっと彼の表情が曇った。

なにかいけないことでもしゃべったのかと自分の言動を顧みるけれど、思い当たらない。
キッチンに突っ立ったままで、彼はどうとも受け取れない微妙な色合いの瞳を下に向けているだけ。

「あの、……変なこと言いました?私」

「言いました」

やけにはっきりと答えたので、思わずビクッと震えた。
怒ってる……ように見えたから。