「ニジマス、塩焼き以外食べたことありませんでした」

「え?そうなんですか?もったいない!」

「男の料理なんてそんなもんですよ。ムニエルっていうんですか、これ。めちゃくちゃ美味しいですね」

「そっちがムニエルで、こっちはバタポンソテーです」


初めて上がった藤澤さんが一人暮らしをしているマンションのリビングで、私たちは今日釣ったばかりのニジマス料理に舌鼓をうっていた。

どうしてそうなったのかというと。
私は魚を捌けない、彼は魚を捌ける、私は捌いてもらった魚は調理できる、彼は捌いた魚を塩焼きにしかできない、ということで、自然に彼の部屋で料理をしようということになったのだ。
そう、自然に。ごく自然に。


最初に部屋に上がった時は緊張のしすぎで帰ろうかとも思ったけれど、二人でキッチンであーだこーだと料理しているうちにそれも吹き飛んだ。

「もしも釣りすぎた時はどうしてるんですか?」

塩焼きには白ご飯が合う。
ほかほかのご飯を口に頬張りながら、向かい側に座る彼に尋ねた。

「冷凍して食べたり、実家に持っていきます」

「野球選手ってたくさん食べるイメージですけど、藤澤さんって普通ですよね」

「たしかに大食いではないですね。今の体重がベストなので、キープできるように気をつけてはいますけど。そんなに厳しい制限はしてませんよ」

私が作ったムニエルを真っ先に食べ終えた彼は、つけ加えるように「ですからパフェもいけます」と笑った。

「和栗のモンブランパフェでしたっけ」

「はい。次はそこに行きたいです」

「最初は女の子しか来ないんじゃないかって怯えてましたよね」

ふふっと思い出し笑いをしてしまった。
結局、わりと店内にちらほらと男性客がいたので彼も安心して滞在していたのだけれど。

「私は海鮮丼を食べたいので、デザートにパフェにしますか?」

「じゃあそうしましょう」


落ち着いたインテリアの彼の部屋は、性格をそのまま写し出したような場所だった。
ブラウンを基調とした家具が多いし、物がごちゃごちゃとしているわけでもなく適度に片づいている。

これまでに残してきた数々の栄光を記録するような、トロフィーとか賞状とかそういうのもあるのかと期待していたけれど、残念ながらそういったものは皆無だった。