辺りにいる人たちも調子よく魚を釣り上げていて、私も釣り上げたい!という気持ちになる。
勢いそのままに「次!お願いします!」と釣針を藤澤さんに向けてブドウ虫をせがんだ。

「絶対釣ります!アイナメ!」

「……ここ川です、石森さん」

「─────すみません…」

…穴があったら入りたい。


ブドウ虫をつけてもらってる間は目をそらし、もう一度釣針を川に投げ入れてもらったところでバトンタッチ。
次こそは、と気合いを入れて目印を凝視する。

「添えてる方の手で釣竿の動きがなんとなく分かるんで、ちょっと怪しいと思ったら引いてみてもいいと思いますよ」

「なるほど……」

左手を竿に添えているものの、いまいち感覚がよく分からない。
せっかくもらったアドバイスも生かせなくて、挙動不審な動きで竿の先と手元の柄を見比べるくらいしかできなかった。


晴れた秋の涼しい風を浴びながら、川で釣りをするなんて最高のアウトドア日和。
こういう休日を過ごしたことがなかったから、新鮮でたまらない。
同じ時間を共有することはとても楽しくて、そしてますます好きになる。

でも、話せば話すほど私とは遠い場所にいる人だと思ってしまう。
歩んできた人生の重みが違う。


脳裏に思い浮かぶ、彼のホームラン。


「ホームランって……狙って打てるものなんですか?」

「え?」

ぼそりと尋ねられた質問に、藤澤さんは少しびっくりしたようにこちらを振り向く。

「うーん、俺は甘い球であれば狙って打てますけど。本当のホームランバッターは、厳しい球でも余裕で柵越えしますから、そのあたりは才能もあると思います」

「……あの時のホームランは?決勝の時の」

「あれは狙ってません。チャンスだったから外野に飛ぶようには打ちましたけど。だからずっと心の中で、“落ちろ、落ちろ”って念じてました」

もしかしたら実際に口に出して言ってたかも、と笑う彼を見ていたら胸がチクッと痛んだ。

彼の思いが詰まったあの打球の行方を、私は怖くて見れなかったからだ。目を閉じて、彼が最後の打者になるんじゃないかって信じることができなかったのだ。
そんな自分を思い出して腹立たしくなった。