キャンプ場らしき広い場所から、川の上流へ向かって歩くこと一時間弱。
ちらほらと釣り人たちを見つけるようになり、おそらくこのあたりが釣りのポイントなのだろうと予想ができる。
座り込むほど疲れたわけではないが、日頃の運動不足を実感する足腰の弱さだった。
「大丈夫ですか?少し休んでてもいいですよ」
木陰にレジャーシートを敷いた藤澤さんがどうぞと促してくるけれど、平気です!と若干無理をした。
だって、せっかく二人で遠出したのだから。一人でボーッと座って過ごすなんてもったいない。
一方の藤澤さんは、当然ながらまったく疲れを感じさせない顔で早速釣りを始める準備をしている。
現役の野球選手なのだから、こんな二、三キロの距離を歩くのなんて軽いトレーニングの一環だろう。むしろ、トレーニングの準備運動みたいな?
釣竿にエサのようなものをとりつけているようだったので、川魚ってなんのエサを食べるのかと興味がわいて彼の手元をのぞき込んだ。
「小エビですか?それとも疑似餌?」
「ブドウ虫です」
「─────きゃあっ!」
彼が手にしていたのは小エビでも疑似餌でもなく、小さなイモムシみたいなやつ。
思わず悲鳴を上げて仰け反ってしまった。
あれ、と顔を上げてから、藤澤さんは冷静に思い出したように吹き出した。
「……あ、そうか、虫だめなんでしたっけ」
「さ、魚って……、そ、そんなの食べるんですか!?」
もはや彼の手元は凝視できない。
後ずさりして、あさっての方向をゆらゆら眺めながら血の気が引いていくのを感じた。
「めちゃくちゃ食いつきますよ。見ててください」
青白い顔をしている私を笑った彼は釣竿を握るなり、釣針をさっと川に投げ入れた。
まだそんなに時間が経っていないというのに、目印になっている糸が沈んだのか見えた。瞬間、素早く竿を強く引き上げる。
あっという間に一匹の魚が釣針に食いついていた。
「うわぁ!もう釣れた!」
「ニジマスですね。ちょっと小さいけど」
驚いている隙に、藤澤さんはさくさく魚を針から外してクーラーボックスへ入れる。
あまりにも早すぎて、もっと座ってのんびり魚が食いつくのを待つ姿を想像していた私にはついていけなかった。
よく見れば周りで楽しんでいる人たちも、次々に魚を釣り上げている。
どうやら釣れやすいスポットのようだ。



