気分が浮かないのはきっと私だけ。
優勝して金メダルを手にできたのは喜ばしいことだけど、そのぶん藤澤さんが遠くへ行ってしまったみたいで気軽に連絡をすることもためらわれた。
なにより、藤澤さんから一切連絡が来ない。
電話どころかメッセージすらも。
そういう性格と一言で片付けてしまえばそれまでなのだが、栗原さんが沙夜さんにするみたいに少しくらいはあってもいいんじゃないかと思うのだ。
私から『優勝おめでとうございます』くらいは送った方がよかったのかもしれないけれど、送るタイミングを逃してしまった。
「柑奈ちゃんの考えてること、当ててあげよーか」
広げていた新聞を畳んでいたら、ふいに沙夜さんにそんなことを言われたのでぎょっとして顔を上げる。
「分かるよ、住む世界が違うもの。野球のことなんにも知らなかった私だって感じたくらいだから、柑奈ちゃんはもっと感じてるよね」
「こんなぬるま湯みたいな会社でのんびり働くOLと、たくさんのことを犠牲にしながら野球に打ち込んで日本代表にまでなっちゃう人、比べようにも比べられないです。失礼なくらいです」
「うんうん、そうだね」
「ぬるま湯みたいな会社って。おーい丸聞こえだぞー」
私たちの会話に無理やり淡口さんが入ってきたものの、翔くんが「事実だからしょーがないっすよ」と止めに入る。
「でもさ、それでも相手が自分のことを必要としてくれてるなら、別にいいんじゃない?彼のためになにができるのか考えればいいだけだもの」
遠いと言い出したのは昨日のことなのに、沙夜さんはもうすでに何かを悟ったような口調だった。たった一日で何があったのかは分からないが、気持ちの切り替えができたのはたしかだ。
「だ、だって、必要となんかされてないんです!」
「どうしてそう思うの?」
必死に飲み込んできた気持ちを、ついつい沙夜さんだからと打ち明けてしまう。
「連絡が……」
「うん?」
「連絡がまったくないんです、昨日から」
「藤澤くん、きっと奥手なのよ!柑奈ちゃんから送りなさい!」
「えぇっ、でも!」