「野球以外の話、ちゃんとするのよ。はたから聞いてると、ほかの話してるのか疑問に思うくらいだわ」

「……できるか不安です」

「色々聞き出すのよ!そして自分の話もするの!」

きっと藤澤さんに比べたら、なんの変哲もない真っ平らな人生を歩んできたので、盛り上がりに欠けるような気もするが。

私たちの会話を嫌でも聞かなければならないほどすぐ近くの席にいる翔くんが、ガッツポーズを作って私にウィンクを飛ばしてきた。

「石森さん、よく分かんないっすけど頑張ってください!全力で応援してますから!」

「なんか嘘くさい笑顔〜」

「なっ……!この笑顔が可愛いってこの前合コンでめちゃくちゃ褒められたのに!」

「彼女に振られたばっかでもう合コン!?」


ゴホン!と、淡口さんの何度目かの咳払い。
急いで私と翔くんが口をつぐむと、沙夜さんが不満げに淡口さんを睨んだ。

「やだぁ、淡口さん。娘が遠くに行っちゃうみたいで寂しいんじゃないんですか?」

「それは…………ちょっとはあるな」

「あはは、認めるんだ!」

まだなんにも進展していないというのに、私の職場は平和だ。


冷房の効いた事務所でカーディガンを羽織り直しながら、土曜日は何を着ていこうかなとクローゼットを頭の中で掘り返すのだった。