「……柑奈ちゃんがスポーツ観戦!?」

怖いものでも見るように、震えるように自分で両肩を抱いた沙夜さんがその綺麗な顔をくしゃりと歪ませる。
…沙夜さん、今は六月です、そんなに寒くないはずです。

「何があったんすか、石森さん」

「どういうわけがあって社会人野球のことを聞いてるのか、俺も興味あるなあ」

翔くんと淡口さんもなにやら食い気味に私にその理由を聞き出そうとしている。

「だって地元のプロ球団が優勝して日本一になっても一切スルーしてた柑奈ちゃんが、いきなりやまぎんの試合を見に行くなんて…」

まるで娘を心配する父の眼差し。
淡口さんに、微妙な作り笑いを浮かべてみせた。

「友達に誘われただけですよ!やまぎんのエース?のファンなんです、親友が」


嘘ではない、本当のことを話すと翔くんが瞬く間に自分のパソコンで検索し、画面に出てきたいくつもの写真を見て「おお!」と食いついた。

「なるほど!この人っすね、栗原和義。やまぎんのエース的存在。相手チームをマウンド上でぶった斬る。150キロを超えるストレートで圧倒……。石森さん、こういうタイプが好きなんすねぇ。めちゃくちゃイケメンっすよ!」

「あっ、私、顔まだ見たことないの、見せて」

作業途中の仕事を放って、立ち上がってまで翔くんのパソコンを見つめる。