永和というフレーズを聞けば、思い出してくれるのだと思った。

だから少し賭けてみた。…それだけだったのに。

「そうなの!?…まあ可愛らしい子ね!」

パアッと花咲くように顔を明るくしたその人を見たら、もう引き返せなかった。

自分と同時に由良すらも縛り上げた。

隣にいた『お兄ちゃん』はその日から『由良』になった。

もう、普通じゃなかった。どうして忘れてしまったのか分からなかった。

それが私だけだと思うと、残酷だった。






「永和ちゃん?」

「はい」

「少し、ボーッとしてたわよ、大丈夫?」

「…はい」

少し目を逸らせば…柚羽さんはふふっと笑う。

「そういえば本当に由良とそっくりよねぇ」

「そうですか?」

「ええ、お似合いよ」

…そっくりって、そりゃ兄ですからね。

食材をトントンと切りながら笑う柚羽さんを尻目に由良へ目線を流すとムスッとしたように眉を寄せていた。