自分の感情が分からない。
今までこんなことはなかったのに。
教室を出た私は三年生の階に向かっていた。
下級生が上級生の階にいると、どんなに背中を丸めても目立ってしまうことは分かっていた。けれど、どうしても今朝のお礼は早めにしておきたかったから。
「さっきは門を開けていたただいてありがとうございました」
三年一組の教室の前で足を止めると、すぐに前列に座っていた和谷先輩が気づいてくれた。
「え、わざわざそれを言いにきたの?」
「……はい。あと、挨拶運動のこともすいませんでした」
たぶん私の声は雑音に掻き消されそうなほど小さかったと思う。
委員会での和谷先輩の姿しか知らなかったけれど、どうやら同級生たちにも人気のようで「その子誰?」と、色々な人が私のことを見ていた。
……嫌だな。やっぱり来たのは失敗だったかも。
なんだか急に変な汗が出てきて、しどろもどろになっていると、先輩が突然、私の腕を掴んだ。
「こっち」
そう言って、私を人気のない階段下へて連れていってくれた。



