「せ、先生のお家ってどこですか?」
別に先生のことを探ろうとしたわけじゃない。ただなにか話を繋げないと、と不意に出てしまった言葉だった。
「俺の家?」
「え、い、いや、先生は私の住所を知ってるのにフェアじゃないような気がして……」
私は一体なにを言ってるんだろう。
一眠りしたはずなのに疲れが抜けてないのかな。それとも家に帰りたくないから先生を引き止めたいだけ?
「駅前の高層マンションがあるだろ。あの大通りを抜けて、裏道を通って仲がいい煙草屋のおっちゃんの店を左に入る。んで、なんで潰れないんだろっていう古本屋を過ぎて、また裏道に入ってひたすら進むと築30年のアパートが見えてくる。俺の家はそこの4階」
「すいません。頭では追えませんでした」
私がそう言うと、先生は声を出して笑った。
大人なのにケラケラと、先生の笑顔に嘘はない。
ああ、やっぱりもう少し話していたい。けれど、そんなこと言えるわけがない。
先生はポケットからスマートキーを取り出して、車のドアロックを解除した。暗くて見えにくいけれど、先生の車は黒色だった。



