「いい加減にしてよ!あなただっていつも夜遊びしてるじゃない!!」
それはお母さんの声だった。
「俺は仕事の付き合いだよ。お前とは違う」
「男はいいわよね。そういえば許されると思ってるんだから」
喧嘩している相手は、もちろんお父さん。一軒家だけど壁が薄いので話している内容はすべて筒抜け。
私は寝ていたから気づかなかったけれど、どうやら珍しく先にお父さんが帰宅して、後から帰ってきたお母さんのことが気に食わずに言い争いになっているようだった。
「俺が言ってるのは主婦のお前がこの時間に帰ってくるのはおかしいってことだろ?」
「私は専業主婦じゃないのよ!仕事して残業して、帰りに同僚とお酒を一杯飲んできただけで、どうして責められなきゃいけないのよ!」
ふたりのこうした喧嘩は定期的に起こる。
普段はお互いに関心がなくて、別の相手と息抜きしていることを黙認しているのに、ばったりと顔を合わせてストレスが限界まで達すると我慢が一気に爆発してしまう。
昔だったら仲裁に入っていた私も、今は怒りが収まるまでリビングのドアは絶対に開けないようにしている。
どんなに頑張ったって、どうにもならないことはある。
暫くすると、お父さんは荷物を持って家を出ていった。また一週間ぐらいは帰ってこないつもりなのだろう。
リビングからお母さんの啜り泣く声が聞こえてきて、私はやっとドアノブに手をかけた。
「……大丈夫?」
声をかけると、お母さんは慌てたように涙を拭いた。



