「私、先生のこと七色の混ぜご飯みたいだって思ってた時があったんです」


「は?」


「だって先生はいつも色鮮やかなパーカーを着て、靴だって映える色ばかりのスニーカーでしょ?だから、色がない私なんて梅おにぎりと一緒だって、ひとりで虚しくなってたんです」



あの非常階段で、先生は私のことを見つけてくれた。

あの日がなかったら、先生が声をかけてくれなかったら、今の自分はどこにもいない。



「私は個性もないし選ぶ服はモノトーンばかりだし、目立つことなんてほとんどないんですけど……。今は気持ちの面ではカラフルな先生に近づけた気がしてるんです」



先生はいつだって遠かった。

手なんて届くはずもない別の世界で生きてる人だと思ってた。


先生の背中を追いかけて、追い越すことなんてこの先もきっとないだろうけど。


でも、肩ぐらいは並べられるようになれたんじゃないかと、思ってる。




「……俺さ、お前のこといつもすごいなって思ってた」


海風がふわりと、先生の髪の毛を揺らした。