「そんなに気を抜いていると、私に襲われるかもしれないですよ」


「はは、襲われても金目の物なんて持ってないし」


「そうじゃなくて」



そうじゃないんですよ、先生。


私は先生が思うよりも下心まみれだし、バカだなって笑われても、あわよくばって常になにかを期待してる。


先生のことをベタベタと触りまくっている女子たちのほうがよっぽど健全なんじゃないかって思うくらい、心では先生を自分だけのものにできたらいいのにって考えている。


なのに先生は、先生は……。



「ん?どうした?」


黙ってうつ向くだけの私に、先生が前屈みになって顔を傾けてきた。



いつもよりとろんとした瞳と、息を飲むほどに綺麗な顔立ち。もっと欠点だらけだったらよかったのに。



「先生、お酒を飲んだら記憶がなくなるって本当ですか?」
 

「え、うん。まあ……」


「じゃあ、これは忘れてくださいね」



私はそう言ったあと、先生の洋服をグイッと掴んだ。


その反動で距離が近くなり、私は先生のほっぺたに唇を当てた。
 


それはわずか1秒だけの下手くそなキス。



 
「……お、おやすみなさいっ!」



そして私は先生の反応も見ずに走り去った。  



バクバクと、心臓が速い。


わずかに触れただけの先生の肌は柔らかくて、やっぱりとてもいい匂いがした。