「どれくらい飲んだんですか?」

「一杯だけだよー」

「いっぱいでしょう」

「はは。堅いこと言うなよ、六花ちゃん」



酔っている。完全に。

でも、ちょっと救われた。先生とどんな顔して会ったらいいのか怖かったから。



「私、先生の灰皿を持ち帰ってしまったんです」と、ポケットから灰皿を取り出した。



「わ、わざとじゃないんです。本当にうっかりっていうか、私も家に帰るまで気づかなかったくらいで……」


「おー本当だ。わざわざ届けてくれたの?いい子、いい子」




……なんか普段の先生よりも口調が甘い。


私は返信が来なかったことに対してあれこれと考えていたっていうのに、こっちが拍子抜けするくらい先生は気にしてなくて。


安心したような、ガッカリしたような、そんな複雑な気分。


思えば先生は同じ灰皿のスペアを持っているわけだし、困っているだろうと焦っていたのは私だけだったようだ。




「つか、寒くない?家入ろうよ」
 

そう言って先生はポケットからお洒落なレザーが特徴的のキーリングを取り出した。

そこには様々な形の鍵が付けられていて、その中から先生は慣れたように自宅の鍵を見つけ出した。



「……先生は本当に不用心ですね」


こんなところを誰かに見られたら。

こんな時間に生徒を招き入れたことを誰かに知られれば。


ううん、そうじゃなくて。 

気にしているのは、私自身の気持ちについて。