なにそれ、なんなの。


先生は教師でしょ?

普通は友達になりたいじゃなくて、友達を作れって指導する立場でしょ?


本当に調子が狂う。


私は外の景色をぼんやりと見てるだけの自分でよかった。
 
失敗したくない。笑われたくない。

自分の思ってることを言葉にするのは難しいから、言葉にはしないという選択をしてきた。  


なのに、私が人を求めているヤツだとか、俺が友達になりたいとか、なんで簡単にそんなことを言うの?


なんで、誰かに言ってほしかったことを……先生が言うの?


急に涙が出そうになって、私は慌てて背を向ける。




「もうチャイムが鳴るので、失礼します」

私は逃げるようにしてドアノブに手をかけた。




「的井。昼休みにどこ集合だっけ?」


先生の意地悪な声が背後で響く。



もしかしたら、先生と友達になったことを後悔する日がくるかもしれない。 


やっぱり近づかなきゃよかったって、苦しくなる日がくるかもしれない。それでも私は……。

 


「非常階段、でしょ?」

充血した目で振り向くと、先生は満足そうに笑ってた。



郁巳雅人先生。あだ名はいくみん。


掴みどころがなくて全然教師らしくないこの人に賭けてみよう。



私の世界が広がる、第一歩。


いつか先生のように七色になれる日がくることを信じて。