20代くらいの綺麗な女性と話していたのは、間違いなく私のお父さんだった。
会話が聞こえてくるぐらい距離は遠くないのに、まるでふたりの世界みたいにお父さんは最後まで私に気づくことはなかった。
ドクン、ドクンと嫌な鼓動が波打っていたけれど、動揺はしてない。
お父さんに相手がいることは分かっていたし、家の中では絶対に見せない笑顔を女性に向けていたところで今さら驚きもしない。
けれど、こんな場所で。もしかしたら私だけじゃなく父を知る近所の人にも見られるかもしれない場所でも平気なんだなって。
ちょっとは人目を気にしてくれていたら、少しは罪の意識があるんだって思えるけど、それすらもお父さんにはなかった。
「どうしたの?」
お父さんたちが消えていった方角を見つめていると、先輩が心配したように顔を覗き込んできた。
さっきまで楽しく会話をしていたのに、まさか父の浮気現場を目撃したなんて言えるわけもなくて。
私は「なんでもないですよ」と、平気な顔をして歩き出した。



