先生はカメの食事が終わるまで箸を離さなかった。

耳元で「カメは鼻も詰まる」とか「腹も壊す」とか色々なことを教えてくれたけど、この距離に耐えられずに私は先生の腕を潜(くぐ)って自分から離れた。



「……先生、私やっぱり友達にはなれないです」


それはさっき言いかけたこと。


先生は他の教師たちとは違う。親しみやすいし、生徒たちから好かれる理由も分かる。


でもこの距離の近さが、私はダメ。


生理的に、とかではなく、簡単に心を乱されてしまいそうで怖い。

私は今のままでいい。

友達もいらないし、ひとりでも日常は成り立っている。だから……。




「教室にいる時も登下校の時も自分が寂しそうな顔をしてるって気づいてないの?」
 

先生はまっすぐに私のことを見ていた。
  


「……き、気のせいです。それは」

見透かされているような瞳に、私の視線はまた下を向く。



「お前は人と喋りたいし、人と仲良くなりたいし、人を求めているヤツだと思うよ」


「……分かったようなことを言わないでください」


なにも知らないくせに。

私が人と話すだけでどれだけ緊張するか。そんなの、誰とでも仲良くなれてしまう先生には分からない。



「だから友達になろうって言ってんじゃん。的井のことを分かりたいから、俺が友達になりたいんだよ」