「ねえ、いくみーん。テスト勉強やりすぎて頭痛い」

「いくみん、数学で出る問題を一問だけ教えてよ」


先ほどまで教室にいた古典の先生には見向きもしなかったのに、クラスメイトたちはすぐに先生のほうへと寄っていく。



「はいはい。中間の成績が平均以下だったら来月の修学旅行は留守番だからな」

「えー!」


教室内でブーイングが起こる中で、菜穂がこそっと耳打ちをしてきた。



「いくみんは六花の気持ちに気づいてるの?」


「う、ううん。まったく夢にも思ってないと思う」



クラスメイトに関わらず、先生に対して下心が見え見えの生徒はたくさんいる。

だから生徒から好意を持たれるということに少なからず免疫はあるのに、どうして私だけが安全だと思われているのだろう。

まあ、そのおかげで先生の家に入ったり、学校の外で会ったり、他の人たちがしていないことをできているわけだけど。




「いくみんってああ見えて生徒と教師っていう立場を間違えない人だと思うよ」


「……うん」


それは十分過ぎるほど分かってる。


先生が優しくしてくれたり、親身になってくれたり、私に構ってくれることも、私の担任の先生だからで、そこに深い意味はないってことも。