「こんなことでお前が頭を下げるなよ」

「だって……」

「悪かったな、和谷。タバコのことは報告していいけど、的井が一緒だったってことだけは内緒にして」


和谷先輩はそれを聞いてもずっと難しい顔をしてるだけ。



「とりあえず先生は戻っていただけると助かります。少し的井さんと話がしたいので」


「……分かった」


先輩の言葉に、先生はゆっくりと非常階段から出ていった。



ふたりきりになっても、まだ空気はどんよりと重い。いつも穏やかな先輩がこんな怖い顔をするなんて……。



「先輩。先生のタバコのこと、本当に許してください」

そう言うと、先輩は深いため息をはいた。



「タバコのことも見逃せないけど、もっと見逃せないのはこんな人気のないところで先生とふたりきりでいたことだよ」 


「………」


「しかも今は文化祭の最中だよ。もし誰かに見られたら、人目を盗んで会ってるって思われても仕方ない場面だってことは分かってる?」
 

「……はい」



先生がいると思ってここに来たのは私。そして、戻れと言われて戻らなかったのも私だ。



「俺は風紀委員長として言ってるんじゃないよ」


先輩がまっすぐに私のことを見ていた。




「はっきりと聞くからはっきりと答えてほしいんだけど、的井さんは郁巳先生のことが好きなの?」


その瞬間、ざわっと大きな風が私たちの間を通り抜けた。