「うわ、いくみん。身長178だって!」

「しかも体重63キロとかモデルかよ」


次の視力検査へと移動する廊下で、クラスメイトたちが騒いでいた。その中心には一際目立っている人物がひとり。



「俺のスペックにようやく気づいたか」

「うわ、いくみんが調子に乗ってる!」


みんなを取り囲むようにして話題を集めている〝彼〟を私は冷めた視線で見ていた。


去年から変わったこと。そういえばもうひとつだけあった。



彼の名前は――郁巳雅人。(いくみまさと)



見た目は大学生のように若いけれど、年齢は27歳でれっきとした二年一組の担任の先生だ。


生徒との距離は近くて、まるで友達同士のように接する先生はもちろん学校の人気者。

私はあまり興味がないけれど、他のクラスの生徒たちも「郁巳先生が担任で羨ましい」なんて口を揃えて言ってるし、男子からの女子からも慕われている存在。



「なあ、いくみん。どうやったらそんなに身長伸びるの?」

「地球の重力に逆らわずに生きてれば伸びるよ」

「なにそれ、ウケる!」


親しみやすい口調に、先生とは思えないラフな格好。

おまけにみんなからは〝いくみん〟なんてあだ名をつけられて敬語で話す人は誰もいない。