「先生、次の授業は何組ですか?」


準備室の壁時計を確認すると、もうすぐ三時間目のチャイムが鳴ろうとしていた。



「次の授業はないよ。でも来月に中間があるから答案考えないと」


出来るなら私も授業をサボってずっとここにいたいけれど、先生の邪魔だけはしたくない。



「……じゃ、私も教室に戻りますね」


そう言いながらドアに手をかけると、背後から先生の声が飛んできた。




「ってかお前、なにか用があったんじゃないの?」


たしかに私はここに来た時、用事があるような素振りをしてドアをノックした。


私だってわざわざ10分間しかない休み時間に三階の突き当たりにある数学準備室を訪れるようなことはしない。


でも時間割を見て、今日は数学の授業がないことに気づいて。


朝と帰りのホームルームしか先生は教室に来ないんだなって思ったら……引き寄せられるようにここに来ていた。




「用事なんて……先生と話してる内に忘れてしまいました」

「なんだ、それ」


先生はクスリと笑った。



先生は私がこんな気持ちを抱いていることなんて微塵も想像はしていない。


どこまで誤魔化せるのか。

どこまで言えば、どこまでしたら、先生に気づかれてしまうかな。



ポーカーフェイスにはわりと自信があったっていうのに、先生に恋をした途端に私は変わってしまった。