『そっか』
先生は深く追及することはなかった。
たぶん先生は今タバコを吸っている。あの眺めがいい部屋で星空を見ながら一服してる姿が目に浮かんだ。
「郁巳先生」
なんとなく名前を呼んでみた。
『なんだよ』
この返事もいつもどおりで、胸がぎゅっとなる。
……と、その時。ファミレスにスーツを着た人たちが入ってきて店内はどっと騒がしくなった。その人たちは喫煙の席へと案内されて、私がいる禁煙の席は再び静かになる。
『お前、今どこにいんの?』
先生の声のトーンがさっきより低くなった。どうやらお客や店員の声が電話越しに聞こえたらしい。
「え、どこって駅前のファミレス……」
私が言い終わる前に先生は「分かった」と言って電話を一方的に切った。
……分かったって、なに?
先生はいつもそうだ。
勝手になんでも自分で決めて、私を置き去りにする。
二年生になったばかりの頃は、そういう教師らしくないところが苦手で、担任が変わってほしいと強く願っていた時期もある。
でも、いつの間にか先生は私の心の真ん中にいる。
どうでもいいような片隅に追いやろうと努力しても、私の一番柔らかい部分。そこに先生はスッと入ってきて、私はそのたびに弱くなる。



