それから授業が終わって教室にチャイムが鳴ると、先生は素早く廊下に出ていった。
「いくみん、遊ぼうぜ」
「今日は忙しいからダメ」
「えー」
郁巳先生の姿を見るなり、他のクラスの人たちもぞろぞろと集まってくる。先生はそんな生徒たちを上手く交わしていた。
「いくみんって彼女いるのかな?」
「さあ。いつ聞いてもいっぱいいるとしか言わないよね」
「いっぱいとか、いくみんならマジでいそう!」
もう先生は教室にいないのに、女子たちはいつも先生の話ばかり。
私は関心がないから知らないけど、先生は相当モテるらしい。噂では各学年にいるマドンナ的な女子からもすでに告白されたとかなんとか。
さぞ鼻の下を伸ばしていると思いきや、そういう時だけ先生は大人の対応でしっかりと断ると聞いた。
単純に年下に興味がないのかもしれないし、そもそも生徒と恋愛なんてできるはずがない。
人と馴れ合わない私でさえ先生は整った顔をしてるって思うし、きっと美人の彼女がひとりやふたりいてもおかしくはない。
まあ、そんなこと私には関係ないけど。
騒がしい教室の中で私は冷静に次の授業の準備をはじめる。
……あ。
机を確認して、すぐに気づいた。
数学のノート……提出し忘れてる。
今なら間に合うと思って私は廊下に出た。すでに郁巳先生の姿はなく、私は仕方なく追いかけるようにして階段を駆けのぼった。



