「スライディングでゴールしたヤツ初めて見たよ」


それは、郁巳先生だった。




「私もする予定じゃありませんでした」


「だろうな。ほら」


先生は私の前で腰を落とす。


早く乗れと言わんばかりに催促してきて、私は素直に先生の背中に身体を預けた。


人前でおんぶされることになるなんて思ってなかった。けれど、リレーの熱気がまだ冷めていないグラウンドでは気に止める人はいない。



先生の背中は、とても大きくて優しかった。



「……先生」 

  
私は首に手を回しながら呟く。



「ん?」



こんな結果になるはずじゃなかった。

リレーだって失敗に終わって、やっぱり向いてなかったって、先生を責めるはずだった。なのに……。




「私、ちょっと青春しました」


たぶん、この体育祭を何度も思い出しちゃうぐらい。



「よく出来ました」


先生のその言葉に、私はそっと背中に顔を埋めた。



そのあと救護テントに運ばれた私は先生に手当てをされた。


やっぱり容赦なく消毒液をかけられてしまったけれど、テントに城田さんとその友達と私の怪我を気にしたクラスメイトたちが入ってきた。


心配されることに慣れていない私は戸惑うばかりで、怪我の痛みなんて一瞬で忘れてしまった。



「本当にすごく感動したよ!」


みんなから労いの言葉を言われて、この喜びを分かち合えたことが嬉しかった。



私は照れたふりをして、下を向いた。



本当は泣きそうになったこと。


みんなにバレないように涙を我慢していたことは、おそらく先生だけが知っていた。