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次の日。私はいつものように早起きをしてお弁当を作っていた。昨日の晩ごはんの余りを詰めて、卵焼きだけは今日も丁寧に焼く。
するとガチャリとリビングのドアが開いて、起きてきたのはお母さんだった。
「六花、頭痛薬どこにあるっけ?」
お母さんはこめかみを押さえながらソファーへと座った。
「……風邪?」
「うーん、分からない。とにかく痛み止めみたいなやつ」
「薬なら三番目の棚にあるよ。白いカラーボックスのほう」
「えーどこ?」
お母さんがぶつぶつと棚の中を確認する。
家の空気が穏やかだった頃は、お母さんもそれなりに家事をやってくれていた。手先が不器用で料理は苦手だったけど、失敗してもみんなで笑えてたしお父さんも協力的だった。
でも、ひとつが崩れるとどんどんバラバラになっていって、みんなで笑い合えてたことが今では夢だったかのように思えてくる。
きっと失敗しても許せたのは、そこに愛情があったからで。愛情がなくなると、なにもかもが許せなくなるのだと知った。
喧嘩ばかりをするようになって、お母さんとお父さんは変わってしまった。
お母さんは家のことは私に任せっきりになり、お父さんは毎日家には帰ってこない。
たぶん、お互いに別の人がいる。
お母さんがたまに可愛らしい声を出して電話をしているのは知ってるし、お父さんだって月に何回も飲み会があるわけがない。
家族の中に愛情がないから、他の誰かで埋めているのかもしれない。
それが、たまらなく気持ち悪い。
「……いってきます」
私は小さな声で言った。でも、お母さんから〝いってらっしゃい〟と言われることもなく、私は静かに家を出た。



