大人は勝手だ。
いつも、いつだって。
「……ただいま」
学校が終わって家に着いた。挨拶したところで出迎えてくれる人がいるわけでもなく、私はゆっくりとリビングのドアを開ける。
台所にはお母さんが今朝飲んでいったであろうコーヒーカップとドリッパーがそのまま放置されていた。
……はあ。またか。
私は制服の袖を捲って、素早く洗い物を済ませた。
私の家族は三人。
お母さんは小売店に勤めていて、お父さんは有名な電気会社で部長をしている。
お金には困ってない。どちらかといえば食べ物も旅行も贅沢にしてきたほうだと思う。
けれどそれは昔の話。
お母さんとお父さんは、いつからかすれ違ってばかりで喧嘩が絶えなくなった。
もう顔を合わせるのも嫌だと、お互いに時間をズラして家で過ごしているし、存在を確認するだけで空気がピリッとなるほど修復は不可能な状態になっている。
そんな冷えきった家の中で、私の居場所は2階にある自分の部屋だけ。
なんで喧嘩をしてるのか。どうしてこんな風になってしまったのか。昔は知りたくてお母さんやお父さんに何度も尋ねたことがあったけど、『子供のお前には関係ない』と蚊帳の外にされ続けてきた。
仮面夫婦ならぬ仮面家族。
おそらく両親の冷めた態度を感じるようになってから、私は自分の意見を主張しなくなった。
当たり障りがないようにひたすら存在を薄くして、悩んでることがあっても言葉にするのをやめた。
誰も私になんて興味はない。
最初からなにもかもを諦めてしまえば裏切られることもない。
それが両親から、学校から学んだ答えだ。



