「塚本さんっ!だめです、離してください……っっ!」
 「俺、世良さんが好きだって話したよね?………それなのに、まだあの男がいいの?」
 「………塚本さん………。」
 「頼ってもいいとは言ったけど、全く恋愛対象として見てくれてないの?俺だって男だよ?いつまでも我慢して紳士でなんていられない。」
 「やめっ…………っっーー!」


 玄関のドアに体を押し付けられ、両腕を塚本の片手で押さえられる。抵抗することも出来ずにいると、塚本の顔が近づいてきた。
 顔を背けようとするけれど、それも空いている手で止められる。

 そのまま、押し付けられるような荒々しいキスを塚本にされてしまう。

 何回も何回も唇を奪われていくうちに、体に力が入らなくなり、ずるずるとドアに寄りかかりながら体を落としてしまい、ついに千春はペタンと座り込んでしまう。
 それでも、塚本は攻めることを止めずに、唇や頬首筋に舐めるようにキスを落としていく。



 顔も髪も体格も、秋文に似ている。
 優しくて、頼りがいがあって、笑顔が素敵な塚本さん。拒む必要はないはずなのに、体の力が抜けても、安心もせず気持ちいいとも思えなかった。
 ただ彼が与える、体温と唇や指の感触を感じているだけだった。
 また、男の人に甘えてしまった自分がいけなかった。そして、秋文も信じて待っていられなかった。
 自分は弱いなと情けなくなる。
 

 塚本は何も悪くない。
 全て自分のせいだ。
 そう思って、彼の熱を受け入れようと、呆然と彼の行為を見つめていた。
 そのはずなのに、ふいに頬に温かさを感じた。


 「え…………。」


 千春は、自分でも驚いてしまう。
 瞳からボロボロと涙が流れ始めたのだ。
 受け入れると決めたのに、どうして泣いてしまうのだろう。

 そんな事は疑問でもなかった。すぐにその理由はわかってしまう。

 千春は、まだ秋文が好きなのだ。
 諦めきれなくて、名前を聞くだけで会いたくなるぐらいに好きなのだ。