この日は週末で、残業はしないでおいしいイタリアンのお店に来ていた。


 「世良さんが英語上手なのは、ずっと習ってたからなんだね。」
 「趣味だったので。でも、塚本さんも英語お上手ですよね。」
 「ここに来てから必死に覚えたんだよ。」
 

 恥ずかしそうに笑いながら話す塚本は、年上には見えないぐらいに幼かった。可愛らしい人だな、と男の人なのに思ってしまったのは、彼には内緒だ。


 「だから、洋服買いに行ったりするときはまだ緊張しちゃうんだよね。」
 「たしかに………私はこっちにきてからあんまりお洋服買ってないですね……。」
 「そうなんだ。…じゃあ、明日とか一緒に買い物行かない?」


 少し心配そうな顔で誘ってくれる塚本の顔を、千春はにっこりと微笑んで「ぜひ、行きたいです。」と答えた。すると、塚本さんは「本当に!?……ありがとう。嬉しいよ!」と、満面の笑みを見せてくれた。



 秋文とモデルの女性と熱愛が報じられてから数ヶ月が経った。
 秋文の事を忘れることは出来ないし、ネックレスもキーホルダーも外すことも出来なかった。けれど、少しずつ変えていかなくてはいけないと、千春自信は思っていた。

 いつまでも秋文の事を引きずっては行けない。
 次を考えてすすまなければ、と思っていた。
 目の前の塚本さんは優しくて、千春を愛してくれていた。きっと一緒にいれば笑顔にしてくれる。幸せにしてくれるはずだ。

 秋文を忘れるためには、誰かといたい。一人で過ごして忘れられるほど、千春は強くはなかった。
 甘えてしまうのは悪い癖だと思っている。けれど、誰かに甘えないと寂しさはなくらないのだ。






 
 よく考えてみると、誰かとデートをするなんて久しぶりだった。誰かのために洋服を選んで、メイクをして髪をセットする。
 日本にいた頃は、よくしていたことなのに、こちらに来てからは全くなかった。
 千春は、塚本の事を考えながら、デートの準備をした。気持ちが高まって来るのを感じ、「デート、楽しみなんだな。」と、ようやく自分でもそう思えてきた。