「……ッ痛。」

 つい声が漏れて辺りがシンと静まり返った。
 それから深い溜息が聞こえて、近くにあった服を体にかけられた。

「おかしいと思ったんだ。」

 ヤダ。ヤダ。お願い。気づかないで。
 そんな願いは手遅れだった。

「……本当のこと話してくれるだろ?」

 頭を左右に振ると再び溜息をついた高宮課長が腕を回して抱き寄せた。

「大丈夫。怒ってないから。
 いや、怒ってるか。」

『怒ってる』の言葉に体を固くさせると軽く頭突きをされて、頭をぐりぐりされた。

「こういうのは無闇に捨てたりしたらダメだ。
 大事にしなきゃダメだろ。」

 そんな一般論なんていらない。

「だってそしたら『俺じゃなくてもっと大事な人になる奴に捧げろ』とか言うじゃないですか。」