「顔色が良くなったな。
 出掛けても平気か?」

「それは……。はい。」

 やっぱり高宮課長はずるい。

 意地悪をしたかと思えば優しい言葉をかけたりして……。

 休み前、高宮課長に心配されて早く帰されてゆっくり休んだ。
 その後に嵐のような出来事があったはずなのに、悩んでいるというよりもどこか吹っ切れていて心は軽い。

 婚約破棄されてから、いくら前を向こうと思っても出来なかったのにな。

「それならどこか出かけよう。
 真似事でもデートらしいことをしてみようか。」

「デートって……。」

「いいから準備しろよ。」

 高宮課長のお陰で元気になれて、高宮課長のちょっとした行動に一人、動揺されられて。

 好きになった自分のせいなのにどこか悔しくて、離れていこうとする高宮課長の腕を引いた。

 本当は不意打ちでキスくらいしてやりたいのに、緊張で腕にしがみつくのが精一杯だった。

「な、なんだよ。」

 上擦った声を聞いて少しだけ気が済むと「私のことを好きになってもらうおまじないです」と誤魔化して手を離した。

 本当にそうなればいいのに。
 頭をかきながら去っていく後ろ姿をぼんやりと眺めた。