「出来が良くても俺みたいに可愛げのない兄もいる。
 馬鹿な子ほど可愛いってな。」

「可愛い……?
 というより、馬鹿決定なんですか!?」

 しかも、しれっと自分は出来が良いって言い切ってるし。
 そりゃ良かったでしょうけど!

「なんだ。自分が天才とでも?」

「努力家です!」

 頑張りが空回りしているとしても頑張ってはいる。
 そこが認めてもらえなかったら私にはもう何もない。

「まぁ、努力はしてる、な。」

 そう言ってもらえて自分でも驚くほど嬉しかった。

「今日はこのまま帰るんだ。
 職場には直帰と連絡しておく。
 死にそうな顔してる。
 明日からの週末は家でゆっくりするんだな。」

 マンション前で降ろされて高宮課長は行ってしまった。
 自分こそ働き過ぎのくせに。

 そう思うのに高宮課長の心遣いが有り難かった。
 お言葉に甘えて少し早い帰宅にのんびり過ごす。

 不意に思い出す「上手く、笑えないんだ」と言った苦しそうな高宮課長の顔。

 人の心配が出来る立場じゃないけれど、どうしてかあの顔が頭から離れない。

 その日、高宮課長は何時になっても帰ってこなかった。