クククッと笑う菊池さんをヘッドロックして高宮課長は言う。

「変な詮索しないんなら俺の家に住まわせてもいい。」

「寂しい独り者だしな。」

 めげずに減らず口をたたく菊池さんへ執拗にヘッドロックをする腕は締められて、堪らず伊織さんはタップしている。

「でも……。」

 なんと言っていいのか分からない感情が渦巻いて、何かを高宮課長へ訴えたいのに上手く言葉が浮かんでこない。

 対して高宮課長はつらつらと自分の行動の説明をした。

「目の前で人に死なれたら目覚めが悪い。
 ただそれだけだ。」

 締められていた首を解放してもらえた菊池さんが首を手でさすりながら「俺を殺す気かって話」とぼやいている。

 当たり前に話が進んで「飛び降りようとしていたわけじゃないんです」と否定することも忘れていた。

 ただ通りかかっただけ。

 そうだとしても。
 高宮課長のイメージからはかけ離れていた。

 首をぐるりと回した菊池さんが楽しそうに言う。

「まぁ、そこに俊哉が通りかかったのも必然だな。」

「始まった。伊織の運命論。
 伊織には気をつけろよ。
 フェミニズムでロマンチストなんだ。」

 辟易した様子で言った高宮課長だったが、どこか楽しそうに見えた。