たくさんご馳走になって伊織課長にも愛梨さんにもお礼を言って、菊池家を後にする。

 久しぶりの楽しいお酒は体をふわふわと浮遊させた。

「高宮課長!
 私、知ってますよ?」

「何がだ。」

 高宮課長は至って普通で悔しいくらい。
 この人の慌てふためく様子や動揺する様を見てみたい。

「私がボロボロになってるからって無理矢理、自分が食事も洗濯も掃除も全部受け持ってくれたんですよね?」

 街灯の光を浴びて高宮課長は陰影をはっきりさせた顔でうそぶく。

「さっきも話した通りだ。
 内田の仕事振りを知ってたから無理だと決めつけてただけだ。」

「またまた〜。」

「仕事中、ふとした時にお留守になる頭をどうにかしろ。」

「だからそれは、最近、婚約破棄されちゃったんですよ?私。」

 何度、口に出しても胸がキリキリと痛くなる単語。
 どうして、こうなっちゃったの?

「彼に呼び出されて、結婚できないって。」

「あぁ。」

「どうしてだと思います?」