あい、じょう………。
まぁ、感謝はこもってるかな。
愛梨さんはといえば、人差し指を口元に当てる仕草がなんとも可愛らしい。
お料理じゃなくて他にも色々と教わらないといけない思いがした。
「内田から下手に気持ちを込められたら日頃の恨みから毒でも盛られそうだ。」
よく分かってらっしゃる。
高宮課長は少し考える素振りをしてから口を開いた。
「まぁ、でもそうだな。
内田にも料理当番をさせよう。
働かざる者食うべからずだ。」
「そうそう。自分がやった方が早いからってなんでも仕事を背負い込むと部下が育たないぞ。」
「はいはい。伊織課長。」
辟易したように高宮課長が口にした名前に度肝を抜かれた。
「伊織……課長?
もしかしてあの、厳しいことで有名な?」
「ふふっ。
伊織くん仕事には厳しいのよ。
大丈夫。女の子には優しいから。」
愛梨さんにウィンクされても気が気じゃない。
『菊池伊織』
どこかで聞いたことある名前だと思った。
同じ社内だからって思っていたけど……。
そうか。
伊織課長の伊織は名字じゃなく名前だったんだ。

