上司との同居は婚約破棄から


 けれど途中で私の顎を掴む腕が急にストップした。

 その腕を横からグッと捕まえた人がいたからだ。
 知らぬ間に向かい合って座る私達のテーブルの横に立つ人。

「……高宮、課長…………。」

「お前………。」

 晴真のこんな顔を見るのも初めてだった。
 ギリギリと悔しそうに奥歯を噛み締めている。

 けれど高宮課長は気にも留めない様子で私へ声を掛けた。

「藤花。帰るぞ。」

「えっ。でも。」

「俺のことで聞きたいことがあるなら俺に聞けよ。」

 ごもっともなことを言われて私は席を立った。
 ここにいても建設的な会話が出来るとも思えない。

「藤花!待てよ。騙されてるって。」

 騙されてる。
 その言葉に僅かに揺らぎそうになる。

 振り返った高宮課長が冷たく言い放った。

「俺、知り合いに腕のいい弁護士いるから。
 名誉毀損とか、結婚詐欺とか、なんでも相談に乗ってくれると思うけど?
 のうのうと暮らしていたかったら、藤花に金輪際関わらないことだな。」

 本当に人を殺めそうな目で晴真を睨んでから「行こう」と手を引かれた。