「どうしたの?」

『今、高宮って奴の家に住んでるのか?』

「どうして……それを………。」

 上司の名前を話したことはあるかもしれない。
 鬼みたいに怖くてねって。

 だからって、別れた後に住む場所の話をしたことはもちろんないし、一方的に振られた後に会話するのはこれが初めてだ。

『美咲さんに聞いて。』

 みさき………。
 どこにでもある名前なのに胸騒ぎがして携帯を持つ手が震えた。

『藤花。騙されてる。
 そんな奴と一緒にいちゃダメだ。』

 どうして晴真にそんなこと言われなきゃいけないの?
 そう思うのに、電話を切れずにいた。

 晴真が高宮課長の名前を知っていたことと、美咲という名前が引っかかって嫌な想像が拭い去れない。

「美咲さんって誰?」

 震える手で携帯を握りしめて答えを待った。
 聞こえてきたのは想像していたよりも遥かにショッキングな内容だった。

『俺が3年前に浮気した相手で、高宮って奴の元婚約者。
 高宮は復讐したくて藤花に近づいたんだよ。』