マンションへ戻るとつい数日前に戻ってしまったように高宮課長は自分の部屋へ行ってしまった。
距離が近くて恋人みたいな雰囲気だった数日だっただけに、気持ちは沈む。
自分も与えられた部屋に戻ってベッドに埋もれていると、再び携帯が鳴った。
表示されているのは『渡辺晴真』
数週間前の私だったら飛びつくように電話に出たかもしれない。
そのくらい……好きだと思っていたのに。
今は思い出したくもなかった。
付き合い始めの頃に浮気をされて、それでも今後の自分を見て信じていって欲しいと言われて、別れなかった。
約束通り、清い関係で付き合い続けて結婚することになった時は信じて良かったと思っていたのに……。
最後は一方的に、好きな人が出来たからやっぱり藤花とは結婚できないと言われた。
結婚式目前にそんな勝手な理由で別れたいと言われて………。
ずっと鳴り続ける携帯を見つめ、諦めるように電話に出ることにした。
『藤花?良かった出てくれて。』
電話から聞こえる彼の声に胸がざわざわする。