「…相変わらずの無言? それ、疲れるんだけど…」


私は足元を見つめ俯いていた。


桧山くんは恐らく、呆れた目で溜め息をついているだろう。



「…とにかく、また。

電話するから。じゃあ」



…電話。


まだ好きだったあの頃はいつもあたしから掛けてた。

今日こそは掛かってくるのを待とう、という駆け引きだってあった。

なのに…。今さらになって。


小さくなった彼の背をボンヤリと見つめたまま、暫くその場を動けなかった。








…あ。雨…。



頬に差した水滴を見上げ、私は右手を水平に上げた。


時は午後四時過ぎ。


今の気持ちに同調した様な空模様だ。



…夕立に遭うなんて。傘、持って来てないのに。



ザァーっと降り出した雨は、休む事なく街を灰色に染めていく。


眼鏡が濡れて前がよく見えない。




それでも雨は、次第に私の体を濡らしていく…

はずだった。



「風邪ひくぞ?」



視界に影が宿り、雨の音が変わった。



…あ。



青い傘を持ち、私を見下ろしている翔の姿を目に捉えた瞬間。


急に視界がぼやけた。