少女が店から出ていったあと
僕の席にやってきたのは、グラスをさげにきたマスターではなく――。
「ちょっとイズモくん!」
青葉だった。
「なに。っていうか、なんでいるの」
「マスターが。またいつでも遊びにおいでと言ってくれたので」
「あー。あのひとの言葉は、だいたいがウソだから信――」
「また遊びに来てくれて嬉しいですよ、青葉さん」
僕の言葉をさえぎったマスターがテーブルの上のグラスを銀色のお盆に乗せた。
「あ、ありがとうございます。迷惑じゃないですか?」
迷惑だ。
「いえいえ、とんでもない。イズモくんには友人がいませんからねえ。できて嬉しい限りです」
君までイズモくんって呼ぶな。
ニコニコして猫かぶりやがって気色わりい。
だいたい友人がいないんじゃなくて、作らないんだよ。
欲しくない。要らないんだ。
「あ、すみません。あなたは彼が好きなんですよね。友達じゃなくて、友達以上恋人未満でしたね」
「バカか。友達でもないさ、こんなや……つ……」


