「好きになっちゃいけない人に恋をしてしまったんです」


泣きながらそういう彼女は、ハンカチを目元顔にあてている。


好きな男を思い泣いたのは今日が初めてというわけではないらしい。

その証拠に、僕の元にやってきたときから目が赤かったし。


夜もあまり眠れていないのだろう。

大きな目の下にはくまがある。


「好きになっちゃいけないって。誰が決めたの?」


胸元まで伸びたウェーブがかった髪は一度も染められたことのない自然な色をしている。


「誰が決めたもなにも。世間も。ママも。誰も、こんな恋を許してはくれませんよ」

「それで。相手は誰なの」


渋って言わないのは既婚者だからか。

それとも血縁関係でもあるか。


若しくは――。


「担任の先生なんです」


ああ、その手の相談か。