そして、気づいた。

 自分が息を止めていないことに。

 だから、料理を運ぶ動作に止めがなく、スムーズだったのだ。

「なんでだろう。
 パクチーが臭くない」

 いや、臭くないことはないのだが、いつか、日向子が言ってたように、それを嫌だと感じない、と言うか。

「食ってみろ、芽以」
と聖が言い出した。

 いやいや、此処でか、という顔をしたのだが、店全体が、ウェルカム、という顔をしている。

 店員が席に座って食べるとかどうなんだ、と思いながらも、みなさんに勧められ、翔平の席に、翔平を抱えて座ると、兄がくれたピザを一口食べてみた。

 いつものように、鼻に突き抜ける、香水のようなカメムシのような、得体の知れない匂いがした。

 いつまでも鼻に残る……

 だが、不思議とそれが嫌ではなかった。

「うそっ、食べられるっ!」
と芽以が声を上げると、店内に歓声が上がる。

 だが、逸人はショックを受けたような表情で厨房から覗いていた。