ー 気のせいかな、でも…。

亜矢が戸惑っている間に早坂瑠偉は視線をまっすぐにし、背筋を伸ばして口元は固く結んでいる。

「…早坂くんはロンドン事業部でスタートし、その後ヨーロッパの他部署、北海道支社を経験ののち、本社に所属することになりました。こちらの課にも関わることがありますので、よろしくお願いします」

課長の短い挨拶の後、課長とともにその社員は静かに去っていった。



3時の15分のお茶の時間になった。


「何だか控えめな人ですねえ」

「そうねえ。海外からいきなりスタートしたり、あちこちに回って本社に来た、っていうからどんな人かと思ったら…」

製品企画二課にいる女性社員は正社員、派遣、パートを含めて6〜7人だ。今日はそのうち4人が一緒にお茶をしている。15分だから話題はたわいないことだが、ふと今日転勤して来た男性社員の話題になった。

「どれほどやり手で、オレがオレが、って感じかと思ったら、そうでもないのね」

「顔もメガネでよくわからなかったけど、ハンサムだし」



今日の差し入れのマドレーヌをかじっていた美香が言った。

「う…んと、何だか変ね、あの人」