亜矢は同僚たちがコの字に机を並べている場所に近づいた。

「茅原さんにはお待たせだったよね」

「そうね。この会社では常に社員が移動しているから、歓迎会は三ヶ月に一回だけなのよ。まとめてやるの」

「でも、その分、お店は素敵なところが選ばれるよね」

「やっぱり、移動するのはほとんど若手社員だから」



 亜矢はうなづきながら聞いている。

「そう言えば、早坂さんも参加ね…。当然だけど」

 一人の同僚が言うと、皆は顔をその方に向けた。

 その後、しばし沈黙があった。

 島田美香が口を開く。

「うーん、あの謎の人ねえ…」

 他の同僚も一緒に首を傾げている。つまり、ここまで誰も早坂と関わることがなかったのだろう。

「いい機会じゃん。何か面白い話が出てくるかもよ」

 別の同僚が言った。

 皆は笑顔になった。

 そしてまた歓迎会の行われるフレンチ・レストランの評判や、その隣のカフェの新しいメニューの話になり、15分の休憩時間はすぐに過ぎた。




 早坂瑠偉、早坂瑠偉さん…。

 亜矢は心の中でつぶやきながら自分の席に戻った。

 どこかで見たことがある人? どこかで見たかもしれない人なの?

 亜矢は自分の記憶の奥底を探って見たが、何も浮かんで来なかった。