翌朝、僕は寝不足のまま家を出た。
昨晩から、ずっと……凛の笑顔と、単語がぐるぐるとループしていた。
凛の言葉をもう一度思い出しながらバスに乗って、外を見る。
「『ヒマワリ』……?」
「……えっと、『ウミ』? 『パフェ』って?」
「『スシ』……?」
昨日、新たに凛が忘れたとわかったもの。
そして、僕は覚えていたものを、を思い出した。
『虫』
『勉強』
『ネギ』
『ピーマン』
『暗いところ』
『ゴキブリ』
『運動』
七つの単語。この単語に、僕は見覚えがあった。
そして……凛が忘れてしまったものを、思い出す。
『イチゴ』
『母親』
『空』
『太陽』
『ウミ』
『ヒマワリ』
『パフェ』
『スシ』
僕は、『母親』意外の、七つの単語……これにも、見覚えがあった。
バスから降り、少し重い足取りで、病院へと入る。
慣れた道を歩き、凛の病室の前で立つ。
そして──ある日の放課後、図書室での凛とのやり取りを思い出した。

