するとそれとほぼ同時に楠木が抱きしめる力を強めた。
「……勝手に言わせとけ、気にすんな」
そっと、私の耳元で小さく囁いた楠木。
ただ、その言葉が今の私には十分すぎて、涙が出そうになるのを必死で堪える。
私は辞めたんだよ?
バスケから逃げたんだよ?
バスケが好きな楠木にとったら私みたいな人間、一番嫌いだろうに、どうしてそんなに優しいの?
理由はわからないけど、そんな楠木に今はただ身を任せる。
楠木のことを“嫌い”だという感情は、すっかり忘れていた私。
それは楠木の優しさに触れたからかもしれないけど、そんなことを考える余裕はなかった。
「撃沈な上に怪我して、これぞ負の連鎖だよね」
「怪我してからは本当に恵美変わっちゃったし」
「あのままいられても試合前の雰囲気に影響するし、辞めて正解だったな、あれは」
苦しい。
胸が本当に苦しかったけど、全部、全部。
私が弱かったからいけないんだ。



